H31年の初頭にあたり、ご挨拶申し上げます。

 最近教授回診で非常に珍しい症例に遭遇しました。良性卵巣腫瘍の手術を腹腔鏡で行った患者さんですが、術後から熱や炎症反応が続き、手術に起因する炎症の存在が疑われ、1週間ほどの抗生剤加療を要し、軽快したため退院されました。しかしその後も1か月にわたり同様の発熱を繰り返し、再入院となりました。炎症がくすぶっている可能性を考え、再手術をしましたが、結果は腹腔内にどこにも感染の証拠はなく、培養結果も陰性、大網が子宮に高度に癒着している部分を解除し、手術を終えました。今のところ、熱や炎症反応も軽快しておりますが、病態が良くわかりません。主治医が論文検索をして非常に珍しい病態の可能性が高いことがわかりました。腫瘍の内容液が腹腔内に漏れ、その成分が化学反応を起こして腹膜炎を惹起するというものです。私もこれまでに経験したことはありません。患者さんにもよくよく病態の説明を行いましたが、治療法もまだ確立したものがなく、当然患者さんの不安は募るばかりです。回診で涙を流されていた患者さんの顔がどうしても頭から離れません。「珍しい症例で論文でも報告はわずか」「確立した治療法は見つかっていない」など正しい情報をきちんと伝えるだけでは患者さんが安心できないのは明らかです。 回診しても、ただただ苦しい気持ちを共有することしかできません。しかし、それだけでも幾分安心されるお顔を拝見すると、ホッとします。正しい医療をしていれば十分なのではなく、ここぞと言う時に本気で気持ちを共有することが大事なのだと感じ入った次第であります。

 昨今、働き方改革が治療の現場にも押し寄せ、医師を労働者として認識し、労働時間に厳しい制限がかけられるようになってきました。若手医師にはこのような教育が既になされつつあり、我々の時代のように夜遅くまで病院に残るのは法令違反と見なされるようになってきました。土日の回診なども制限がかかります。働き方改革が今後益々幅をきかせても、やはり労働という概念には違和感を感じます。患者さんと悩みを共有するのは決して労働ではなく、人間としての在り方そのものなのだろうなと実感しております。

 当科は昨年、分娩数がついに500件を越えました。手術件数も700件を越え、医局員12〜13人ではすでにマンパワーの限界を超えつつありますが、昨年度に誓った安全な医療を提供するだけではなく、この一年は、ここぞと言うとき、困った患者さんの側に立てているかを、自らに、そして医局のスタッフに問うてゆきたいと思います。

4

----新年に行われた大阪大学同門会(平地会)にて。私の入局時(1986年)の主任教授であった谷澤修名誉教授とともに。