腫瘍研究室

婦人科癌の発癌分子機構の解明と新たな治療法の確立

癌は遺伝子の病気であります。遺伝子に起こる様々な異常、それは遺伝子の1塩基の変異であったり、数塩基の欠失であったり、またより大きな遺伝子座の欠落であったり、さらには染色体の異常や遺伝子増幅など、様々な種類の異常の集積により起こってきます。

そのような異常を個々に明らかにして、婦人科癌の発癌分子機構を多段階発癌の観点から論理的に解明し、最終的にはそれを治療に結びつけようというのが当研究室のフィロソフィーです。 

中山らのグループによる卵巣癌研究

中山の大学院時代からのメインテーマである「卵巣癌発生機構の分子生物学的解明」、及び中山が米国留学中に発見した「新規癌遺伝子NAC1の婦人科領域での機能解析、癌治療への応用」を基本テーマにして取り組んできました。 近年、卵巣癌は良性腺腫から境界悪性腫瘍をへて低悪性度の癌へと進展していくType Iと、封入嚢胞や卵管上皮から急速に高悪性度の癌へと進展していくType IIが存在することが明らかとなってきました。

中山らType I経路の遺伝子異常としてERBB2やARID1Aの遺伝子変異、Type IIが染色体不安定性でありCCNE1、NAC1、RSF-1, Notch3といった増幅遺伝子が発癌に関与していることを発見してきました。

新規増幅遺伝子NAC1については機能ドメイン解析の結果、DNA結合ドメインを有する転写因子でありGadd45GIP1、FASNといった癌の進展に関わる遺伝子を転写制御し、卵巣癌の発癌、進展に寄与していることを報告しています。さらに、NAC1の機能としてタキサン製剤に対する薬剤耐性、卵巣癌の浸潤、転移を促進する事を報告してきました。また、中山らの長年の目標である「難治性がんに対するNAC1阻害剤の開発」は国内外複数の研究室と共同で低分子化合物のスクリーニングに漕ぎつけました。

中山らのグループによる卵巣癌発癌研究の原点は、卵巣境界悪性腫瘍から卵巣癌への進展に関わる遺伝子変化の同定を試みることから始まりました。

この研究で卵巣癌の発生機構に興味をもち、当時、斬新な卵巣癌発癌モデルを発表したJohns Hopkins大学のIe-Ming Shih教授のもとへ中山が留学することになりました。

2004年から約2年間、網羅的にゲノムコピー数異常が同定できるDigital Karyotyping (以下、DK)を用いて卵巣癌発生機構に関わる新規癌遺伝子、癌抑制遺伝子の検索に没頭しました。この手法を用いたp53KRAS等の遺伝子解析の結果、卵巣癌の組織型の大多数を占める漿液性腺癌は、良性の卵巣腫瘍から境界悪性腫瘍を経て卵巣癌に至るType Iと、前癌病変を持たずに卵巣表層上皮から短期間で卵巣癌へと進展するType IIが存在する、というShih教授の仮説を裏付ける結果を得ました。

研究の融合がもたらす計り知れない効果!

京が金沢で取り組んできた研究と、中山がこれまでに積み重ねてきた卵巣癌を主とした研究は、婦人科癌の発癌分子機構を多段階発癌の観点から論理的に解明し、最終的にはそれを治療に結びつけようという根本のフィロソフィーは同じであります。両者がタッグを組みます!

若手臨床医の参加を大歓迎致します。

 

細胞不死化、癌化研究

京が金沢大学において手掛けてきた細胞不死化酵素〈テロメレース〉を利用した細胞不死化モデルの作成は当教室においても婦人科腫瘍研究の柱になっています。

子宮内膜、卵管、卵巣そして内膜症細胞の各々の不死化モデルをすでに構築しております。

 

不死化細胞を用いて、これに様々な遺伝子変異を加えることで、癌化細胞まで導き、癌化の分子機構に迫ります。

 

新たな癌治療法の開発

京らのグループがクローニングした細胞不死化酵素〈テロメレース〉のプロモーターは極めて癌特異性が高いことがわかっています。

つまり、下流の遺伝子を癌細胞でのみ特異的に活性化する転写指令配列として重要なDNA配列なのです。その配列をアデノウイルスに組み込むことで、癌細胞のみで特異的に複製する増殖型アデノウイルス(OBP-301)を作製することに成功致しました。

この仕事は岡山大大学消化器外科の藤原俊義先生との共同研究です。このウイルスは癌細胞で複製することで、そのウイルス毒性により癌組織を死滅させることがわかってきました。 

この成果はOBP-301を新たな癌治療薬として応用できる可能性を示すもので、この点を含めすでに国際特許を取得しております。

Oncolys社との共同研究契約によりこのウイルスを癌治療に応用するプロジェクトがすでに臨床応用段階まで発展しております(http://www.oncolys.com/jp/pipeline/obp-301.html)。

ウイルスで癌を退治する、この斬新な取り組みに大いなる夢を見ております。 

中山らはこれまでの研究にて卵巣癌で新規に認められる増幅遺伝子としてNAC1を発見し、卵巣癌の発育進展や抗癌剤感受性に重要な役割を演じていることを報告してきました。現在はNAC-1の機能解析から創薬に向けた臨床応用を目指して研究を継続しています。

 

新たな癌診断法の開発

癌治療ウイルス(OBP-301)を改良し、これに蛍光を発する遺伝子(GFP)を組み込むことで、癌細胞でのみ複製しGFPを発現するウイルス(OBP-401)の開発にも成功致しました。

これも岡山大学とOncolys社との共同研究の成果です。

このウイルスは癌細胞に感染してこれを光らせるので、新たな癌診断法として有力なツールとなります(http://www.oncolys.com/jp/pipeline/obp-401.html)。

私共はOBP-401を血中に循環する癌細胞の検出にもつなげております。 

今後これを癌の早期発見や転移診断、転移予測などにつなげていけないか、新たな夢を見ております。

当科では子宮頸癌へのOBP-301治療の応用を目指します。子宮頸癌は元来放射線療法の感受性が高いのですが、OBP-301は放射線増感作用を有することが証明されており、放射線療法との併用を視野に入れた島根発の臨床試験を目指します。

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