帝王切開後経腟分娩

帝王切開を経験したことのある方は、子宮に傷ができており、その後の妊娠の際に子宮の裂ける(子宮破裂)割合が上昇するといわれています。しかし、帝王切開後の妊娠でも問題なく経腟分娩が行える方がおられます。無事経膣分娩ができた場合は結果的に帝王切開が回避できることになります。

子宮破裂は予測が難しく、いったん発生するとお母さんも赤ちゃんも共に危険な状態になります。そのため当科では、帝王切開経験のある方の分娩方法は計画的な帝王切開を行うことをおすすめしています。

どのような人が経腟分娩できるの?

妊婦さん本人およびご家族に帝王切開後経腟分娩の危険性をご理解いただいた後、ご希望がある場合には、以下の要件をすべて満たしている方に対して、帝王切開後経腟分娩のご相談に応じています。

□児頭骨盤不均衡がないと判断される

□帝王切開は過去に1回のみ

□前回帝王切開で子宮が横に切開されていること

□前回帝王切開で術後の経過が良好であること(創部の治りが異常なかったこと)

□帝王切開以外での子宮手術の経験(子宮筋腫核出術や子宮破裂修復)などがないこと


実際に経腟分娩することの利点と欠点は?


帝王切開後経腟分娩の利点;

子宮破裂を起こさず無事経腟分娩に至った場合には、入院期間の短縮や出血量と輸血使用量の減少、分娩後静脈塞栓症発生の減少、前置胎盤および癒着胎盤発生の減少が期待できます。

帝王切開後経腟分娩の欠点;

子宮破裂が0.4~0.5%に発生し、予定帝王切開を行った場合の約2倍となり、児死亡率は0.5~0.6%で、予定帝王切開の約1.7倍です。子宮破裂を起こした場合、緊急帝王切開が必要となりますが、どんなに急いで帝王切開を行った場合でも赤ちゃんが亡くなったり、重篤な後遺症を残してしまうことがあります。

子宮破裂の場合、大量出血により輸血が必要となり、さらには子宮摘出が必要となることがあります。また、まれですが大量出血のため母体が死亡する可能性もあります。

和痛・無痛分娩

経腟分娩時の陣痛による苦痛を軽減させる方法として、一般的に和痛分娩もしくは無痛分娩があります。

無痛分娩を行うことにより、痛みによる母体の生理的変化を抑えるのみでなく、胎児への血流増加も期待されます。しかし、一方で硬膜外麻酔による低血圧、頭痛、神経障害などの副作用・合併症がおこる危険性もあります。

当科では母体合併症など医学的適応のもとに行う無痛分娩を実施しています。

どんな人に行うことができるの?また、できない人は?

基本的に硬膜外鎮痛の禁忌でない妊婦で、妊婦本人の希望があれば適応となります。

1鎮痛の目的

精神疾患、分娩中の妊婦さんの疲労など

2呼吸器系への負荷減少の目的

筋力の低下する疾患、運動誘発性気管支喘息

肺酸素化能低下など

3循環動態安定化の目的

心疾患(頻脈性不整脈、僧帽弁逆流、Marfan症候群、心疾患など)

脳血管障害(動脈瘤、動静脈奇形、もやもや病など)

4赤ちゃんへの酸素供給量維持の目的

妊娠高血圧症候群など

硬膜外鎮痛の禁忌

1血液の止血凝固障害

硬膜外・脊髄くも膜下血腫を避けるため

2大量出血、著しい脱水

著しい低血圧をもたらすため

3腰部脊椎骨の異常

腰椎手術後など

4全身感染症(菌血症)、硬膜外穿刺部の感染

硬膜外膿瘍や髄膜炎を避けるため

無痛分娩(硬膜外麻酔)の実際は?

1. 背骨(脊柱管)の中には、脊髄と呼ばれる中枢神経の束があります。脊髄の周囲には、くも膜下腔というところとその外側に硬膜と呼ばれる膜があり、脊髄を保護しています。この硬膜の外側(硬膜外腔)に局所麻酔薬を注入して、脊髄神経を麻痺させる方法が硬膜外麻酔です。

無痛分娩では、分娩時の疼痛を取り除くために、硬膜外腔に細い管を挿入して持続的に薬物を注入する方法がよく用いられています。

2. 麻酔の体位は、坐位と側臥位が良く用いられます。背骨のすき間をできるだけ広げるため、背骨を丸めて、エビのような姿勢をとっていただきます。

3. 背中に局所麻酔薬(痛み止め)の注射をした後、硬膜外腔に針を刺し、麻酔のためのチューブを挿入します。

4. 背中のチューブから少量の麻酔薬を入れた後、麻酔範囲の確認を行い、麻酔の効果を判定します。また、血圧測定や胎児心拍数モニタリングを行います。

5. 陣痛が少しずつ強くなってきたら、硬膜外チューブから麻酔薬を持続注入します。痛みが十分取れなければ薬を追加していきます。また完全に痛みを取り除くため、歩いたり、トイレに行くことが困難となりますので、定時に導尿をします(管で尿をとります。2時間1回ぐらいの目安)。

6. 分娩や分娩後の処置が終わったら、硬膜外チューブは抜去します約6時間後から歩行開始可能となります。

7. 原則的に、子宮口の成熟が確認できたら入院して頂き、陣痛促進剤を用いた計画分娩としています。

無痛分娩(硬膜外麻酔)の合併症や副作用は?

1.無痛分娩では麻酔薬の効果によって、陣痛が弱くなることがあります。この際には、陣痛促進剤を使用して陣痛を強める必要があります。また、子宮口が全開大した後、いきむことが難しくなることがあります。分娩が遷延した場合には吸引分娩が必要になることがあります。

2.麻酔によって血圧が低下し、気分不快、嘔気、嘔吐する場合があります。昇圧剤を投与して対処します。

3.無痛になることで、排尿困難となるので、尿は細い管でとります。

4.麻酔中は歩行することが困難になります(側臥位になることはできます)。

5.硬膜を穿刺した場合、脊髄液が漏れることによって、頭痛が生じる ことがあります。

6.脊髄の神経を穿刺してしまうと、神経損傷をおこすことがあります。

7.硬膜外感染が起こり、熱が出たりその後麻痺がおきることがあります。

8.硬膜外血腫ができ、疼痛、麻痺が出ることがあります。

9.カテーテルが途中で切れ、体内に残ってしまう事があるかもしれません。

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