島根大学産婦人科研修プログラムの特徴は何か?

研修プログラムは形式的なものであってはいけないと身に染みて思います。どこにそのプログラムの特色があるのかが鮮明にならなければ魅力的なものとはならないでしょう。

このような視点から当研修プログラムの特色をお示し致します。

1)大学での研修の意義は?

大学か、外病院か、研修する上でこれは永遠のテーマかも知れません。そこには様々な考え方が存在します。大学は当然、重症・難治症例が多く初心者向きではないという意見もありましょう。連携施設でまず「普通のこと」ができる産婦人科になってから、更に高みを求めて大学で研修したいという意見が昨今では主流かも知れません。しかし、私は敢えて別の角度から専門医養成のポリシーを掲げます。

研修において、始めから最先端の、あるいは高難度の医療に触れるのは、ゴールをまず見ておくという点で 様々な観点から有利に働くと私は考えます。知識は必ずしも段階的に増やしてゆく必要はありません。たとえば、腹腔鏡手術において、いきなり子宮体癌や頚癌の手術に触れることで骨盤底解剖の知識は一気に高まります。研修医時代の柔軟な思考回路にはややもすれば過大な情報が降り注ぐ環境こそが適していると思います。
また当教室では症例検討会を一週間のなかで最もプライオリティーの高いスケジュールに位置づけています。各領域に特化した専門家同士が症例検討会で熱い議論を戦わせながら治療方針を決定してゆきます。その際、単なる経験だけでは不十分で、論理的な思考をベースにした合理的な判断、選択がなされなければなりません。大学において始めからこのようなプロセスにいやと言うほど触れることで、深い洞察力が醸成され、自ら合理的な判断が出来るようになり、臨床医としての根っこの部分を太くするのに大いに役立つと確信します。要は、始めに手技ばかりに傾倒するのではなく、まずは考え方や論理の進め方の基本を身につけましょう、という考え方です。

したがって、当プログラムでは原則1年目は大学、2年目以降は連携病院での研修を基本にしています。但し、本人の希望を優先致しますので柔軟なローテーションをすることが可能です。たとえば、大学3−6か月、連携病院2年、地域医療病院6か月ということも可能です。また連携病院から先に研修したいという意向のある方はそれも可能です。研修先のローテーションは本人の希望も尊重されるべきであると考えますので、柔軟に対応したいと思っています。

2)地域に密着した実地型連携施設

島根は確かに都会ではありません。では研修に不利なのか? 私が着任してこの点は真剣に考え抜いた結果、研修が不利かどうかは研修の在り方によって大きく変わるとの結論に達しました。今はそこを逆手にとって武器に出来ると確信しております。それはどのような武器なのか?

島根県では幸い、医師と地域住人の距離感が驚くほど近く、地域の方々も我々産婦人科医を非常に大事にしてくれます。この点は非常に大きなポイントです。また患者様の家族を含め、すべてが身近に感じられ、家族性や遺伝性の疾患をみつけるきっかけになることもあります。患者様の仕事や将来までもがとても人ごとではなくなり、病気を診るだけでなく、全人的医療を実践するには最高の環境です。

ひとえに島根県と言っても、本プログラムには都市型大病院(長期型連携病院)といわゆる地域病院(短期型連携病院)が含まれます。前者に位置づけている島根県立中央病院、松江赤十字病院、松江市立病院、浜田医療センターのスタッフはいずれも多士済々で、極めて豊富な臨床経験を積んだ優秀な先生方です。一定期間大学で過ごしたあとは、これらの先生の下で思う存分臨床に浸かって欲しいと思います。

一方、後者である益田赤十字病院、江津済生会病院、大田市立病院、邑智病院、奥出雲病院、隠岐病院などには、いずれも1−2名で地域のお産を担われてきた大ベテラン臨床医が在籍しております。異常を未然に察知して高次病院に搬送する嗅覚、判断はすごい先生ばかりです。これらの先生方から学ぶものは多いと思います。昨今は集約化の名の下、1-2名の医師が分娩を取り扱う病院でのお産は奨励されず、このような先生方から直接指導を受ける機会が失われつつある昨今、島根では現在でもこのような形態を敢えて一部に残しております。お産は究極の福祉であり、リスクばかりを強調しすぎて地域でお産が出来ない事態は由々しきことであると常々思っております。これらの先生の下で研修が出来るのは貴重なことであります。 

地域医療の現場でどの病院を選択するかは専攻医の先生の希望次第です。バランス良く選択することで絶妙の研修が出来ると思います。

 

3)豊富な症例数

島根県全体の分娩数が年間約6000件ですが、当プログラムでカバーされる分娩数は約4000例を超えます。プログラムに入る専攻医の数を考慮すると、都会の研修プログラムに比べて一人あたりの症例数はかなり多いと思われます。本プログラムには県内の総合周産期母子医療センターと地域母子医療センターの全てが参加致しますので、前置胎盤、胎盤早期剥離といった緊急、重症症例も豊富に経験できます。同一県内にいくつものプログラムが存在する都市部にはないメリットがここで最大限に発揮されます。

4)県外にも拠点を

出身が島根の先生でも一度外に出てみたいと思う専攻医の先生もおられることでしょう。また、県外出身の先生方は当然然り。当プログラムでは一度外に出てみたいという希望を具現化するため、京都(宇治徳州会病院)にも拠点を構えました。宇治徳洲会病院の院長には直接お会いし、病院としての研修フィロソフィーやシステムに大いに共感する部分があり、当プログラムに参加していただくこととなりました。H28年3月より指導医を派遣し、すでに研修体制を整えております。

5)高度先進医療

島根大学では我が国最先端の高度先進医療を常に目指しています。田舎だからほどほどでよいとは全く考えておりません。むしろ、田舎だから都会に匹敵するか、それを上回る先進医療技術が提供されなければなりません。島根の患者様が都会に通う必要がないよう、最新の技術を常に取り入れております。

島根大学は腹腔鏡下広汎子宮全摘術、ロボット支援広汎子宮全摘術の双方が稼働しています。腹腔鏡下子宮摘出症例も年間約100例あり、内視鏡技術の取得にも最適な環境です。生殖補助医療でも、卵子凍結などの最先端の試みを開始しております。また、女性のヘルスケア分野においても早くからメッシュ手術(TVM)を取り入れておりましたが、最近では腹腔鏡下仙骨腟固定(LSC)を積極的に行っております。このように高度先進医療と地域に密着した実地臨床、といった一見相反する研修を全てできるようにするのが当プログラムの特徴の一つです。

 

6)組織的な教育活動

島根大学の症例検討会(毎週月曜 午後3時から)をオープンにし、連携病院の先生方がいつでも参加できるようにしております。放射線科、病理診断科とのカンファレンスも月一回定期で行われております。これは問題となった症例を産婦人科医、放射線科医、病理医が一同に会し、術前のCT, MRI, PET、手術所見、術後病理の解説、検討を通じ、 一症例を徹底的に様々な角度から掘り下げるものです。さらに年10回程度、学外の講師を招いた臨床研究会、講演会を開催しております。これらによって日々の臨床経験を系統的に学びなおします。さらには大学でのモーニングカンファレンス(毎週水曜 朝8時半から)によって最新の臨床論文が紹介され、居ながらにして最新の知識のupdateが可能となります。読む論文も厳選され、エポックメーキングな主要論文が毎週紹介されますので、エビデンスの整理に大いに役立ちます。

 

7)世界に向けた研究活動

島根大学産婦人科では年間約15−20報の英語論文が執筆、公表されております(こちらをご覧下さい)。日常的に医局員が論文を書く習慣が身についており、専門医試験に必要な論文や学会発表で悩むことはありません。当教室では各研究室のラボミーティングを専攻医の先生にオープンにしています。聞きに来るだけでも研究に対するイメージが一変し、一気に身近に感じられることでしょう。専攻医ですでにどっぷりと実験にはまり、論文を執筆している先生もおられます。研究と臨床に実は垣根はないと考えます。研究に高いハードルもありません。臨床の思考回路をそのまま研究に持ち込む、あるいは研究の思考回路を臨床に持ち込む、特に意識することなくそれが普通になることが理想です。

 

8)プログラム終了後の進路

専攻医としての3年間のプログラム終了後は婦人科腫瘍、周産期、生殖医療専門医としてのサブスペシャルティーの道を用意致します。各々の専門医、指導医が最短でこれらの専門医を取得できるように指導致します。腹腔鏡技術認定医の取得も全力でサポート致します。一方、これらと平行して大学院に入学し、博士号を取得する道もあります。博士号とサブスペシャルティー専門医の同時取得も現実的に可能なのです。当科のように田舎の医局では、たとえば婦人科腫瘍指導医とともに1日2−3例内視鏡手術に入り、そのあと同じ指導医の下で和気あいあいと研究を行うという、アットホームな感覚で仕事が進みます。このサイズ感こそが売りなのです。

以上、当プログラムの特色をまとめさせて頂きました。最高の研修環境を整え、専攻医となる先生の参加をお待ちしております。ぜひ一緒に夢を追い求めましょう!

どのような質問でも歓迎致します。遠慮なくお尋ね下さい。

問い合わせ先

0853-20-2265 教授 京 哲 (satoruky@med.shimane-u.ac.jp)

0853-20-2268 医局秘書 (sanfujim@med.shimane-u.ac.jp)

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